先日、仕事つながりの社外の方といくつかの話題について議論しました。その中で、

「やりたくない事をやらない・手放す」

という事の重要性について話が盛り上がりました。

そもそも「やりたい事」とは何か

本記事では「やりたい事」=「やりたい仕事」

そもそも「やりたい事」とは何でしょうか。人間誰しもやりたい事はあると思います。1日中のんびりゲームをやりたい、世界中を旅行したい、などなど。ただ、そうした趣味とかの話まで広げてしまうと話の内容がぼやけてしまうので、本記事では仕事に限定した話にしたいと思います。

やりたい事=得意な事?稼げる事?

では、仕事に限定したとして、「やりたい事」とはどんな事でしょうか。

その問いに対して、「自分の得意な事」を答える人も結構多いと思います。得意な事の方が(比較的)苦労せずにこなす事ができますし、ストレスも少ないと思います。当たり前の話ですね。では、得意な事が本当に自分のやりたい事でしょうか。

もちろん「好きこそものの上手なれ」ということわざがある通り、好きな事=得意な事=やりたい事という場合も多いかと思います。ただ、得意な事でも実際にはそこまで好きでは無い、やりたくないって事も意外と多いと思います。

私自身の話をすると、小さい頃からプログラムをやっていてプログラムはそこそこ得意ですし仕事にもしてきましたが、今現在やりたい事かと言われると、そうではありません。もちろん、お客様に良いシステムを提供したいという思いはありますが、その手段として自分自身でプログラムを書きたいかというと全くそうでは無く、他のメンバーが出来るのであればお願いしたいと思っています。

「やりたい事」=「稼げる事」かと言う話についても、全く同じ議論が成り立ちます。

やりたい事=好きな事

では「やりたい事」とは何でしょうか。前の項で既に結論を書いてしまってますが、

「やりたい事」=「好きな事」

では無いかと思います。

やりたい事に集中する事の長所・短所

冒頭に触れた知り合いの方との議論では、やりたくない事を手放してやりたい事に集中しましょうみたいな話になったのですが、ではやりたい事だけに集中することにどんな長所・短所があるのでしょうか。

長所: 努力が苦にならず、成果が出やすい

最大の長所としては、やりたい事をやる際には努力が苦にならない(努力とすら思わない場合も多い)ため、他人よりも沢山努力をすることになり、結果として成果が出やすいというものです。上にも書いた「好きこそものの上手なれ」というやつです。

これに関してはあまり異論は無いと思いますので、深くは掘り下げません。

短所: (少なくとも短期的には)稼げない可能性がある

やりたい事に集中する事の短所はいくつかありますが、一番分かりやすいのは「稼げない可能性」です。これにはいくつかのパターンがありますが、典型的なのは以下の2つです。

  • やりたい事がニッチ過ぎる
  • やりたい事をやりたい人が多すぎる

まず前者ですが、例えば「プログラムのリファクター(機能を変えずにプログラムの構成をよりシンプルに・適切に変更すること)が好きで、その中でも特に、使われる変数の名前をわかりやすい名前に変える事」に情熱を燃やしている人がいるとします。もちろん、それに特化してもあまり仕事は来ないかもしれません。その場合、以下のような対処法があります。

  • 他と組み合わせる(例: プログラム改善のコンサルティングと組み合わせて、「変数名を適切に変更することだけでレガシープログラムの見通しを良くしてくれる技術コンサルタント」)
  • 少し幅を広げる(例: リファクター全般を扱う)

「やりたい事をやりたい人が多すぎる」例としては、YouTuber になりたい、とかが挙げられます。完全なレッドオーシャンですね。

実はこうしたケースは、前者の「やりたい事がニッチ過ぎる」の反対で「やりたい事が広すぎる」ということが多いです。それに対する対処法としては、分野を絞る、というのが良いと思います。

例えば、単なる「YouTuber」であれば競合が多過ぎですが、「プログラミングを教える YouTuber」であれば、少なくとも HIKAKIN さんと競合することはなさそうです。ただ、多分それでも競合は多すぎると思うので、「未経験の文系大学生にプログラムを教える YouTuber」くらいであれば競合は少ないと思います(調べてないので沢山いたらすみません)。ニッチ過ぎるくらい細分化してしまったと思えば、上に書いたとおり少し幅を広げると良いと思います。

短所: 気をつけないと技術の幅が広がらない

短期間ですが大分前に仕事をしてくれていたフリーランスの方で

「新規でシステムを作るのがやりたいし、それが自分のパフォーマンスが一番出せる」

と言っていた方がいました。実際に、新規のシステム開発プロジェクトをお任せしてしっかりしたものを作ってもらいました。

そのプロジェクトが終わってしばらく経った頃だと思いますが、何か別のプロジェクトは無いか聞かれた際に、運用開始後数年は経っているシステムの改修プロジェクトを提案したところ、その方はお断りになりました。

新規のシステム開発で必要な技術と既存システムの改修に必要な技術は、重なる部分も多いものの異なる部分も結構あります。運用に負荷がかからないようにシステムを設計・改善していく、システムを止めずにシステムを更新していく、といった事は、新規システム開発ではなかなか身につきづらいところです。また、大半のシステム(特にウェブサービス)では、初期段階ではデータ量が少なく、どんな実装をしていてもパフォーマンスに問題が出ることはあまりありません。一方、ある程度運用されていてデータが増えてきた段階で、実装上の問題が顕在化してくることがよくあります。新規システム開発よりは既存システムの改修の方が、そうしたことに対処できる技術が身につきやすいです。

その方とその後に仕事をする機会はなかったため、現在どのようにお仕事をされているかは分かりませんが、仮にその後もずっと新規システム開発しかやっていないとすると、その間に得られた技術に偏りが出来ている可能性があります。

とは言ってもやりたい事以外もやらないといけないでしょ

前項で、やりたい事の長所・短所が分かりました。短所はあるものの、やはり長所の持つ力(成果が出る)は大きいので、「やりたい事に専念したい」と思うかもしれませんが、そうするとその次にいくつかの壁が立ちはだかります。

やりたい事だけしかやらないと評価されない

組織での仕事、特に大きな組織で仕事をする場合、職務としてやりたくない仕事が含まれている場合があります。短絡的な解決方法としては、

  • やりたくない仕事をやる必要の無い会社・職種に転職する
  • やりたくない仕事をやる必要の無い部署・職種への異動願いを出す
  • 個人事業主になるなどして、やりたい仕事だけ受注する

などがありますが、そう簡単にいかない場合も多いでしょう。その場合でも、

  • 自分がやりたくない仕事を好きという同僚がいれば、その人にお願いする
    • チーム全体としてそっちの方が成果が出せるはず
    • 自分自身の目標設定から外してもらう必要はある

という方法が採れるかもしれません。社外(あるいは他部署)に外注するのも一つの手段です。

大きな「やりたい事」のために、小さな「やりたくない事」をやる必要がある

私自身の例を出すと、会社としてやりたい事は色々あるのですが、そのためには会社をもっと大きくして人材面でも資金面でも力を蓄える必要があると考えています。そして、会社を大きくするためには、私がやりたくない・興味が無いけどやる必要のある仕事というのも沢山あります。

これに関しても対処法は基本的には前項と同じで、「他人にお願いする」です。私の場合、事務作業などは極力自分でやらないようにしています。

やりたくない仕事を人にお願いする際の課題

自分がやりたくない仕事を、それが好きな・得意な他の人にお願いする重要性を前項で説明しましたが、自分がやりたくない仕事を他人にお願いする際にもいくつかの課題があります。

やりたい仕事とやりたくない仕事が混ざっている

これは、冒頭に書いた社外の人の話です。その方は営業職なのですが、お客様と対話して解決策を考えて提案するのは好きだけど、アポ取りは嫌いだそうです。話の流れから想像が付くかと思いますが、その方はアポ取りはアポ取りが好きな同僚に任せてお客様に提案する部分だけに専念したところ、お互いに幸せになれたとの事です。

この例の場合は、解決策の提案とアポ取りという2つの仕事に簡単に分解できましたが、実際にはそう簡単に分割できない事も多いと思います。その場合でも、仕事の内容を分析してできる限り分割して考えてみる事で、他人に任せる仕事が出てくるかもしれません。

やりたくない仕事を出来る・やりたい人が周りにいない

自分がやりたくない仕事をうまく見つけ出す事が出来たら、それを他人に任せる必要がありますが、ここでもやりたい人・出来る人が周りにいないという課題にぶつかる事も多いと思います。これについても対処法としていくつか考えられます。

  • 同僚などの身の回りの人だけでなく、クラウドソーシングなどを活用する
  • 仕組み化・手順化して、その仕事が出来る人を増やす

前者についてですが、最近では多種多様なクラウドソーシングサービスがあり、そうしたサービスを使えば大抵の仕事はやりたい人がみつかると思います。事務作業などは典型例ですが、それ以外でもかなりニッチな作業まで外注が可能です。

後者は前者とも関係するのですが、仕事を他人に任せる場合、「何をやるのか」と言うのが明確になっていた方が依頼しやすいです。そのためには日頃の作業を手順化・仕組み化する事が重要だと思います。

また、本題からは外れますが、手順化・仕組み化する事により、作業の非効率な部分が明らかになったり、自分が他の仕事に移る際の引き継ぎが容易になるなどメリットが多いです。

もばらぶではどうしているか

最後に、当社では各自の仕事をどのように割り振っているかについて書いてみます。

原則として、本人のやりたい事に沿って仕事を割り振っている

基本的には、以下のような機会で各メンバーのやりたい事を把握して、なるべくそれに沿うような形で仕事を割り振っています。

  • 入社時の面談
  • 定期的な振り返りの面談(※)

(※: 最近人数が増えてきて、思ったような回数を実施出来ていないので改善の予定です。)

原則が適用できない場合どうするか

もちろん、以下のような問題が発生する事もあります。

  • その人の「やりたい事」に合う仕事があまり無い
  • ある仕事をやりたい人が存在しない

合う仕事があまり無い場合は、なるべくそれに近い仕事、あるいは今は「やりたい事」では無いにしても、その人のキャリアにとって有益となるような仕事をなるべく割り当てるようにしています。

次に、ある仕事をやりたい人(あるいは出来る人)が存在しない場合ですが、他の会社やクラウドソーシングなどに外注するのがまずは良いと思います。ただ、現状では私自身が引き受けてしまう事も結構多いです(私が何でも屋となっている)。これはあまり健全な状態ではないので、改善したいと考えています。

なお、クラウドソーシングも含めた外注は、社内にノウハウが残らない事が多いので、コア事業についてはなるべく社内のメンバーで回せるようにしておいた方が良いと考えています。そのためにも、もばらぶでは採用を頑張っています。ご興味のある方は、是非以下のページをご覧ください。

採用情報 | 株式会社もばらぶ

技術の幅が広がらない問題への対処

上の方で「新規開発のみをやりたい人」の話を書きましたが、当社のメンバーについても気をつけないと同じような事が起きる可能性があります。それに対しては、マネージャー・リーダー・メンターの立場の人が、本人の意向も踏まえつつ「次にこういう事もやってみてはどうか」という提案をしてあげるのが理想かなと思っています。これについては、ある程度定型化できる部分もあるものの、art の領域でもあると感じています。

まとめ

人生は一度きり(※)なので、仕事でもやりたい事をやった方が楽しいですし、結果として成果が出る可能性が高いと考えています。ただ、「やりたい事をやる」ためのコツもありますし、短所というか落とし穴もあるので、そうした点にも気をつけたいところです。

もばらぶでは、基本的には各メンバーにはやりたい事をやってもらうようにしています。必ずしも理想通りに行っていない部分もありますが、その辺りは随時改善していこうと考えています。

※: 輪廻転生とか、個人個人の宗教観に基づく話には立ち入りません