1ヶ月位前ですが、@ITで、数年内に予定されている民法改正をITベンダーの視点から解説した記事が載ってました。「ユーザーの要件が間違ってるのはベンダーの責任です!――全ベンダーが泣いた民法改正案を解説しよう その1

以下、引用です。

この改正がIT開発の現場に与える影響は、主に以下の3点だ。

  1. 成果物の「瑕疵(かし)担保責任」という考え方がなくなる
  2. 請負契約において、約束した成果物を納めなくても、請負人が支払いを受けられる場合が出てくる
  3. 成果物の納品を前提とした準委任契約ができるようになる

結論から書くと、個人的にはポジティブな見方を持っているのですが、以下、これらの3点についての考えを書いてみます。

2017/5/31 追記: 改正案は2017/5/26に成立し、各種メディアで解説記事(以下にいくつか挙げます)が出ていますので、最新情報を確認することをおすすめします。

成果物の瑕疵担保責任という考え方が無くなる

まずは瑕疵担保期間に関して触れておきたいのですが、元記事では以下のように書いています。

もっとも、現実のユーザーとベンダーの関係でも、たとえ契約書に「瑕疵担保責任期間は納品から1年と」明記されていても、「2年目以降は不具合の修正に対応しない」と主張するベンダーはまれだ。多くの場合は、納品から何年たっても、バグが見つかればユーザーのところに飛んで行き、無償で改修するだろう。

ただ、これは大手ベンダーの場合はそうでしょうけど、我々のような中小・零細ベンダーが扱う小規模プロジェクトとかだと、瑕疵担保責任期間が過ぎた場合は有償での改修というのは一般的だと思いますし、実際に周りでもそのような対応は良く見かけます。

個人的には1年というのは短いと思っているので、少なくとも2年位は対応するつもりで、それに関して以前投稿しました

今後は

その「発見したときから1年以内」ならさまざまな請求ができる。発見が10年後なら、11年後まで請求可能なのだ。

と改正されるようなので、従来の感覚で言えば「無期限」に近いものになるようです。

これはベンダーにとっては厳しいという側面もありますが、1年以内に発見されなければいいや、という考えで、バグがあることを知りながら納品するようなベンダーは淘汰されていくと思うので、業界に取っては良いのではないかと思います。

100%納品しなくても支払いを受けられる可能性が

「請負契約において、約束した成果物を納めなくても、請負人が支払いを受けられる場合が出てくる」そうだが、それに関しては、同記事の第2回に書かれています。

これはベンダーにとっては有利になる改正だと思いますし、健全な方向性だと思います。特に、昨今は外部環境の変化が速く、契約時点での前提がなりたたなくなったり、要件が変わったりというのが頻発します。その際に、毎回契約を締結し直すというのは現実的には難しいので、この変更は実務的にはかなり大きな変更ではないかと思います。

この変更の恩恵をうけるために、元記事では以下のように書かれています。

 システム開発を請け負うベンダーが今後心掛けるべきは、1つ1つの成果物の完成度を高め、単体でも何らかの役に立つようにしておくことだ。

プログラムであれば、なるべくプログラム同士の結合強度を弱くして、(カプセル化など)シンプルな引数のやりとりなどで第三者でも使える作りにしておくことだ。

これも、「正しい」開発を行っていれば当然実現出来ている事柄ですし、仮に現状ではこうなっていなくても、このような状態にするインセンティブが生まれるという点からも、ベンダーに取っては良い改正案だと思います。

成果物の納品を前提とした準委任契約

これに関する記事は@ITではまだ掲載されていないのですが、同じ著者がEnterprizeZineで投稿した記事に解説がありました。

請負と準委任契約の違いは、IT業界での実務的な面をかなり大雑把に書くと、

  • 請負: 事前に成果物を決め、その成果物に対して支払いが行われる
  • 準委任契約: 成果物はなく、時間に対して支払われる

というものでした。それが、民法改正により成果物の納品を伴う準委任契約というのも出てくるようです。

「何だか、請負と準委任の境目が、どこにあるのか分かりにくくなったと感じる読者もいるかもしれませんね。」

と言った後で、具体的な違いの説明がしてありましたので、いくつか引用します。

まずは指揮命令系統です。請負の場合、(中略)とにかく期限までに、きちんとした成果物の引き渡しを求めるだけで、後はベンダの責任です。一方、準委任契約では(中略)発注者は受注者に対して期間内に作業を完成させてもらうために必要な指示を与え、(後略)

これは従来通りだと思います。

もう一つの違いは瑕疵担保責任です。今回の改正で、請負契約の瑕疵担保責任の期間についての考え方が変わりましたが、納品物に何らかの瑕疵があった時、受注者には、無償でこれを補修する責任があることには変わりはありません。しかし、準委任の場合、引き渡した成果等に対して、この考え方は規定されておらず、もし、後になってプログラムに問題が見つかっても、受注者が無償で補修する責任はないわけです。このあたりは、特に発注者であるユーザに注意が必要でしょう。

つまり、準委任契約における”成果等”とは、請負と異なり、きちんと作業をしたエビデンスであり、作業報告書の代わり程度のものだと考えた方が良いでしょう。

準委任契約では、従来通り瑕疵担保責任は無いようなので、実務上はそれほど大きな影響は無さそうです。

この記事のまとめとして

今までも、IT開発契約が準委任か請負かということで争われた裁判はいくつもありました。そして、今回の民法改正で、一見、境界線がわかりにくくなったことを考えると、こうしたことを争うケースは、今後も増えこそすれ、なくならないかもしれません。

こうした争いを避ける為には、やはり新しい民法を踏まえながらも、それだけに頼らず、ユーザとベンダが、作業の性質と成果、そして検収の条件をきちんと定めた契約書を交わして作業を行うことでしょう。両者が、しかるべき形で合意した契約があれば、民法がどのように変わろうともあまり影響はありません。

と書いてありました。やはり契約書は重要なんだなと認識しました。

なお、ソフトウェア契約に関しては、以前別の記事を書きましたので、合わせてご参照下さい。

ソフトウェア開発に関する契約形態 – もばらぶん

まとめ

数年以内に予定されている民法改正で、瑕疵担保責任や納品に対する考え方、準委任契約に対して変更が予定されています。瑕疵担保責任の件はITベンダーに取って厳しい内容でしょうが、それ以外は実情に即して法律が改正されたという側面が強いのかなと思います。

また、法律がどう変わろうと、契約という行為は重要なのは以前と変わらずです。

今後もこうした法改正は色々出てくると思うので、それに素早く対応できるような柔軟性は持ち続けたいと思っています。