1990年代のバブル崩壊から約30年間物価が上がらなかった日本も、ここ数年でついに物価上昇が当たり前の世界になりつつあります。その事がソフトウェア受託開発等、特に人月単価にどのような影響があるのかについて書きます。

前置きとして、もばらぶでは1人月=○○万円、という形でのサービス提供はあまり行っていません。とはいえ、お客様からのご要望であったり、提供するサービスの種類によってはそのような形で契約することも当然あります。

なお、本投稿で「ソフトウェア開発会社」やそれに類する単語が出た場合は、基本的には人月単価で受託開発を行う会社、あるいはいわゆる SES (人貸し)を指すものと思って読んでもらえればと思います。

どうやって価格が決まっているのか

そもそも、人月単価とはどのように決まるのでしょうか。

基本的には需要と供給

ソフトウェア開発も他の経済活動と変わらず、基本的には資本主義経済の原則に支配されます。つまり供給に対して需要が高ければ金額が上がり需要が低ければ金額が下がります。

ソフトウェア受託開発の単価に絞った信頼できる統計情報などはあまりありませんが、各種情報を総合すると2010年代から継続して需要が高まり続けていて、平均単価も緩やかに上昇を続けているように見えます。

商流(何次請けか)が深いと下がる

事の良し悪しはさておき、日本のソフトウェア開発では多重下請けが広く見られます。近年は4次請け、5次請けみたいな極端な多重下請けは減ってきたものの、3次請けくらいまでは比較的良く見られます。

元請けがお客様から受け取る単価が上昇していたとしても、下請けの深いところに位置していると受け取れる単価は減ります。

※: なお、もばらぶでは多重下請けによる低単価の案件は行っていません。

発注元(お客様・上流の会社)との力関係

世間では単価が上昇していたとしても、継続契約の場合、発注元との力関係で単価を据え置かれる場合も一般的です。もちろん2026年1月に改正・施行された中小受託取引適正化法により、表向きは発注元と交渉できるようになっていますが、実態としてあまり機能しているようには思えません。

物価上昇すると人月単価はどう変わるか

需要と供給が変わらなくても額面は上昇する。理論上は

当たり前の話ですが、需要と供給が変わらなくても物価上昇により額面の人月単価は上昇します。現在100万円/人月だったとして、物価が2倍になったのであれば200万円/人月になります。

ただし、これにはいくつか留意点があります。

マクロで見れば上昇するが、個別の案件ではそうとは限らない

1つめは、世間一般としては物価上昇に伴って平均の人月単価が上昇していたとしても、個別の案件では必ずしも人月単価が上がるとは限りません。理由として一番大きいのは、上述の発注元との力関係でしょう。

マクロでの上昇にもタイムラグがある

2点目として、世間一般の人月単価上昇と物価上昇のタイミングにはズレがあります。経済ニュースなどを見ていると分かると思いますが、(ソフトウェア開発などのサービスではない)通常の商品も、原材料費が高騰してしばらくしてから商品の値上げを行う事が一般的です。

ソフトウェア開発の原材料・原価の大半は人間に支払う給料・外注費なので、世間で人月単価が上昇していくのは給与・外注費が上昇してしばらくしてからになるはずです。そして、人間の給与上昇は世間の物価上昇から遅れてやってきます。

ソフトウェア開発会社への影響

現時点では影響は少ないがこれから出てきそう

前項に書いたとおり、物価上昇が給料の上昇に波及するのには少し時間がかり、その後にサービスの価格=人月単価に波及するため、(物価上昇由来での※)マクロでの人月単価上昇は現時点では小さいもののこれから本格化していくものと思われます。

※: 物価上昇に由来しない、例えば需要と供給による単価上昇は引き続き起こり続けると思います。

単価交渉力の小さい開発会社は厳しくなる

何度か書いているとおり、世間では単価が上昇していたとしても発注元との力関係によっては単価を据え置かれる事が一般的です。

今までも、交渉力の弱い開発会社は、需要と供給要因による世間の単価上昇を尻目に自社の単価は据え置かれてきました。その間にもエンジニアの平均給与は上がり続けていたので、利益率の低下、あるいは採用力(≒提示できる給与)の低下という形で影響を受けていました。

今後はそれに加えて物価上昇による給与上昇も発生してくるため、価格交渉力の小さい開発会社は一層厳しくなると思われます。

ソフトウェア開発会社の統廃合が進む

価格交渉力に小さいソフトウェア開発会社のビジネス環境は厳しくなるため、今後は統廃合が進むと思います。私の周りの狭い観測範囲ではありますが、実際、ここ数年で買収されたり会社を畳んだ話はよく聞きます。

ソフトウェア開発会社は、極端な話エンジニアが1人いれば成り立つ業態で、許認可とかも不要なため参入障壁が非常に低いです。もばらぶも含めて中小開発会社は非常に多いため、統廃合して集約化が進むのは健全な流れかと思います。

もばらぶではどうするか・どうしているか

価格交渉力を付ける

世間では単価が上昇していたとしても価格交渉力がないと自社の単価は上げられません。価格交渉力に影響するのは、

  • 他の会社に出来ないような独自性や技術力がある
  • 特定の顧客に依存していない

というのが主かと思うので、

  • 分野を絞って強みを磨く
  • 特定のお客様に依存しないように、案件を増やす

という当たり前の事を淡々とやっていこうと思います。

契約時に将来の単価上昇を盛り込んでおく

これは去年くらいからやり始めた事ですが、お客様と人月単価での契約を結ぶ前に、「この単価は来年以降は物価上昇率によって値上げさせていただきます」と事前に伝えて了承を得るようにしています。

逆に言うと、同意が得られない=黄色信号だと考えて、その後のお取引などに臨むようにしています。

人月単価に依存しない事業構造を作る

人月単価での商売は労働集約型で利益率も限られています。冒頭で書いたとおり、もばらぶでは人月単価での取引はそれほど多くありませんが、それでも受託開発が労働集約型である事に変わりはありません。

これは多くの会社が試みていて「言うは易く行うは難し」ではあるのですが、今後は受託開発以外の収益も増やしていきたいと考えています。

自社サービスに関しては、以下の MCP ゲートウェイサービスに今年は注力していく予定です。

その他

ここまでで書けなかった事、あえて書いていなかった事を、補足としていくつか書いていきます。

平均値≠中央値

最初の方で世間一般の人月単価は上昇していると書きました。これは平均値の話であって、体感としては中央値は下がっているように思えます。レベルの高いエンジニア・PM、あるいは流行りの AI 関連の単価はかなり上昇していますが、ウェブ・アプリ開発等の従来からあるような案件の単価は下がっているように感じます。

時代についていけるか

これはある意味当たり前の話で、大昔は HTML がちょっと書けてサーバーの設定が出来れば、ウェブサイト開発の案件で大金が得られました。それと同様、従来のようなウェブ・アプリ開発の需要は減っていき単価も減少し、新たな開発分野・手法に対応出来る技術者・開発会社の単価が上昇するのだと思います。

具体的には言うまでもなく AI 関連でしょう。開発内容が直接的に AI に絡まなくても、ワークフローに AI を活用するのは必須です。

まとめ

他の経済活動と同様、人月商売のソフトウェア受託開発にも今後は物価上昇の影響は出てきます。それに伴って、価格交渉力の小さいソフトウェア開発会社は淘汰されていくものと思われます。

もばらぶのような小規模ソフトウェア企業にとっては、強みを磨き、顧客を増やして価格交渉力を付ける事が大切でしょう。

また、もばらぶでは、受託開発だけでなく利益率の高い事業構造を作っていきたいです。その1つが自社サービスなので、しばらくは全力で開発を進めたいです。

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