ノーベル賞受賞者の山中教授が寄付を募る

iPS細胞でノーベル賞を受賞した京大の山中伸弥教授が、研究資金の不足を訴え寄付を募っているというニュースが、1週間前くらいからネット上で話題になっています。例えば、以下のような記事です。

山中教授が「iPS細胞研究基金」への寄付を募る 「研究所の教職員は9割が非正規雇用」にネット震撼

iPS細胞の研究自体も、沢山の人間を救う可能性のある研究ですし、以前たまたまTVで山中教授の特集を見た際も、彼の行動力と高潔なビジョンに素直に感動したので、今回の事は大変な問題だと思いました。

少額ながら寄付をしました

ということで、少額ですが、弊社も寄付をしました。以下のページから寄付ができます。

ご支援のお願い | iPS細胞研究基金 | 京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

余談ですが、こちらのページは、公的機関のページにしては随分分かりやすくてちょっと驚きました。せっかく寄付したいと思っている人が、分かりにくいページで挫折してしまうのは勿体無いので、こうしたところは他のサイトなども見習って欲しいです。

根本的な問題は?

山中教授は世界的なスーパースターでもあり、当然国内の知名度もありますので、今回みたいに話題になれば、それなりに寄付金が集まるものと思われます。山中教授本人も「その中では、iPS細胞の研究は非常に恵まれてきた分野です。」と書いている通りですので、他の分野に関してはもっと状況が悪いものと思われます。

研究費の削減

現在の科学技術政策の問題点の一つが、研究費の削減のようです。

英ネイチャーが日本の科学研究費の乏しさを指摘 「未来を守るため対策取るべき」と警鐘 | キャリコネニュース

「選択と集中」の問題

また、研究費が少ないのも問題ですが、それの分配にも様々な問題があるようです。

日本の異常な研究費助成制度 : 一研究者・教育者の意見

ここで挙げられている「選択と集中」の問題は、非常に納得できます。

「選択と集中」と言うと良いことのようですが、官僚が重点分野を絞って研究予算を与える方式には以下の問題点ががあります。

  • ビジネスの人ですら、成長分野を見定めて集中投資するのが難しいのに、官僚がそれを行うのはかなり難しい
  • 「選択」の際に、短期的な結果が重視される傾向にある
  • 重点分野以外の体力が落ちる
  • 仮に重点分野が成功しても、そこに依存しすぎてしまい、時代が変わった時に一気に取り残される(ビジネスで言えば、シャープの液晶)

基本的に、「選択と集中」のような戦略、特に過度なものは、企業であればベンチャー企業、国であれば中小国家が取るものであり、日本のような人口・経済の規模が大きい国にはリスクが高すぎるように思います。

経済の低迷

そもそも研究費の削減は経済の低迷が一員だと思いますが、経済が低迷する事による弊害は、単純に研究予算が減る事にとどまらず、企業活動が低迷することによる研究成果の適用場面の減少などにもつながり、それがさらなる研究の先細りにつながっている、という意見は興味深いです。

【藤井聡】鮮明になる日本の科学技術の凋落――「PB緊縮財政」が日本をここまでダメにした | 「新」経世済民新聞

そういう意味では、現政権が経済成長を重視しているというのは、微かな光のように思えます。

科学技術軽視の悪影響

今回の問題は数ある問題のうちの1つで、日本の科学技術・基礎研究軽視の悪影響は既に出ています。

今のところ、毎年のようにノーベル賞受賞者、あるいは受賞候補者が出ていますが、それらは過去の業績に対するもので、21世紀に入って以降、かなりの地盤沈下が起きているようです。

以下の記事が読みやすかったです。

日本の科学研究はなぜ大失速したか 〜今や先進国で最低の論文競争力(仲野 徹) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

上の記事で取り上げられている、以下の記事も参考になります。

こうした科学技術の地盤低下が、将来的な国力低下につながることは明白だと思います。

解決策は?

どうすれば解決できるのか、正直な所、よく分かりませんし、私が考えるべきことでも無いのかもしれません。ただ、ソフトウェア開発と同じで、銀の弾丸的な解決策は無いように思えます。

研究、あるいは高等教育に関しては、色々な問題提起がされています。いくつか興味深かった記事を挙げておきます。

まとめ:関心を持つ

こうした問題に対して、個人や一企業ができる事は限られていると思いますが、基礎研究とか教育というのは子供世代に大きな影響を及ぼすものなので、 やはりある程度興味を持っておくべきだと思いました。

それにより、選挙で教育・研究に問題意識がある政治家が選ばれたり、長期的な視野を持った企業に注目が当たれば、少しずつ将来も良くなるのかな、と何となく感じています。