従来型のSIからの脱却
数ヶ月前ですが、ITProにこんな記事がありました。
オルタナティブSI – 業界を変える新モデル(1) (数回にわたっての連載です)
背景として、従来の所謂SIビジネスに歪が出てきていて、多重下請け構造みたいな問題から、卑近な話だと若者に人気が無くなっているらしい、などなど、様々な問題が出てきてます。一方、SIという仕事が完全になくなることも無いでしょう。
そうした背景の中、新たな形のSIビジネスに取り組んでいる会社などについて紹介しているのが上の記事です。面白い記事なので、連載の前後の記事も是非読んでいただきたいのですが、今回、それらについて紹介しつつ、零細IT企業の立場から個人的な意見を書いていこうと思います。
新たな形態のSI
納品のないSI
界隈では、納品のないSI=ソニックガーデンという位に定着している通り、ソニックガーデンの倉貫さんが提唱した(と思う)モデルです。
特徴は簡単に言うとこんなところでしょうか。
- 月額いくら、という形
- その名の通り、「納品」→「請求」ではなく、随時成果物を提供
- あくまで成果、技術に対する対価であり、時間に対する対価ではない
この最後の部分が一番重要なポイントで、これがないと、今までの人月X万の人貸しビジネスと大差なくなってしまいます。(働く場所が自社か客先かという違いはありますが。)
会社としてのメリットは、顧客数がある程度いれば、多数の顧客が一斉に解約ということは基本的にありえないので、技術者の稼働率(≒キャッシュ・フロー)が安定することだと思います。つまり一度回り始めてしまえばリスクが低い点です。
デメリットは、今までの受託開発・SIに慣れた顧客企業からは、納品が無いというのを不安視されるため、(ソニックガーデンさんのように有名なところを除くと)営業が難しい点では無いかと思います。
個人的には、アジャイル開発と親和性が高いですし、今後増えていくモデルでは無いかと思います。弊社でもこの取組をすこしずつ進めています。
定額パッケージSI
紹介されているのは、ジョイゾー社による定額39万円のシステム開発で、技術的にはサイボウズ社のkintoneを使っています。特徴は以下の通りです。
- 要件→金額見積もりではなく、金額(39万円)→その範囲で出来る事を考える、という従来と逆の仕組み
- 顧客との打ち合わせ(1回2時間程度 x3回)を実施し、その中で機能の大半を作りこむ
メリットは、利益率が高いことでしょう。打ち合わせに出て開発を行う技術者が1人か2人かは分かりませんが、仮に2人が8時間+αの作業で39万円だとしても、従来の人月ビジネスに換算すると、1人月300万円位に相当します。
デメリットは、kintoneで実現できることが限られていること、案件を沢山取って稼働率を高くする必要があること、でしょうか。
個人的には、このモデルは伸びると思ってます。現状だと、業務システムの受託開発の場合、似たようなシステムの開発というのは結構多いのですが、自社独自の仕様にするのに100万〜数百万をかけるよりは、システム上のある程度の制約を受け入れて業務フローを変更する代わりに安くシステムを作れる、ということにメリットを見出す企業は多いと思われるからです。
弊社(及びパートナーのフリーエンジニア)は、新しい物を作るのが好きな人が多いので、このモデルは今のところは考えていませんが、他社の取り組みには注目しています。
自動生成SI
ソースの自動生成ツールを使った、以下のような特徴を持つSIです。
- 自動生成ツールを使って短期で開発
- 反復型の開発フローでシステムを構築していく
元記事に書かれているメリットは、(ウォーターフォールで言う)下流工程を削減して、上流〜下流までの人数を平準化出来るため、下流工程を下請けに出す必要がない、というのが挙げられています。ただ、経営という観点からすると、本質的には前節の定額パッケージSIとほぼ同様で、メリットもデメリットも定額パッケージSIと似ている部分が多いように思えます。
デメリットも、定額パッケージSIと似ていて、顧客に対して自動生成ツール標準の画面を使用や安易な追加開発を認めない、などを許容してもらう必要がある点でしょう。
元記事では、定額パッケージSIと比べて、オンプレミスでもクラウドでも対応できる、という違いが書かれている通り、定額パッケージSIに比べると、従来のSIに若干近いかもしれません。
個人的な感想ですが、別に自動生成ツールでなくても、開発内容の標準化・パッケージ化を行って開発期間の短縮を行えば、このモデルに近くなる気がしますし、そこまで目新しさは感じません。
クラウドインフラSI
例として出てるのが、クラスメソッド社及びサーバーワークス社で、どちらもAWSを使ったインフラ構築・運用に強い会社です。特徴としては
- 特定のIaaSベンダーに特化した構築・保守運用
- 独自運用ツール、チューニングなどの専門性で金を取る
使う側としては色々メリットがあると思いますが、経営視点では、従来の何かの技術に特化したSIerとそれほど違いがあるようには思えません。
コミュニティSI
Force.com などの PaaS を使って作った自社システムを同業他社にも提供する仕組みです。元記事では、陣屋旅館という会社が紹介されています。
メリットは、他社にシステムを提供することで収益を得られること、他社へのシステム導入を通じて、ノウハウなどを吸収できる点、などが挙げられています。
デメリットは、元記事には書かれていませんが、他社に導入するための汎用性を持たせる部分が自社専用に作るよりコストがかかり技術力も必要な点、他社への導入が進まなかった場合、それらの手間が余計なコストとなってしまう点だと思います。
弊社でも似たようなことをやろうとしています。世間の一部に自社サービス・ソフトよりSI・受託開発を低く見る風潮があり、私はそれとは意見を異にしますが、自社でのサービス開発にも取り組んでいこうと考えています。その際に、売れそうなマーケットに自分達が全く使わないサービスを投入するよりは、マーケットの大小はさておき、少なくとも自分達が使うサービスを作るほうが、色んなメリットがあるというのは何となく納得していただけるのではないでしょうか。(これについては別エントリーを書こうと思います。)
コミュニティSIは、他の「オルタナティブSI」とは随分異なり、従来のSI事業の代替案という観点では導入する企業もそこまで増えないかもしれませんが、それなりの規模の企業の新規事業等では十分考えられる選択肢ではないかと思います。
まとめ
従来多くを占めていた、人月X万円、多重下請け構造のSI事業は、色々な問題点が露呈してきており、岐路を迎えています。それらに対する代替案、「オルタナティブSI」と呼ばれる新たなSI事業を行っている会社が増えてきており、それをまとめたITProの記事を紹介しつつ、私見を述べました。
また、弊社ではそれらの「納品のないSI」と「コミュニティSI」に取り組んでいるので、それについては別の機会に記事を書こうと思います。
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