以前以下のような記事を書きました。日本法人の代表取締役が、(法人の運営を他の人に委譲せず)代表取締役のまま海外移住するためにやった事や困った事などについて書いています。その記事では会社の運営という視点で書いていますが、「代表取締役 海外移住」という検索キーワードで来る人結構いてそれなりに需要があるのかなと思ったので、今回はそれ以外の手続きや個人に関連する事について書きます。

お約束の免責

本記事は、

  • 弁護士、税理士に直接確認した内容
  • そうした専門家が書いた情報
  • 公的情報

などを元に、なるべく正確な内容を記述するように心がけていますが、内容の正確性などに関しては一切保証出来ません。実際に海外で働く場合には、専門家に相談する事をお勧めします。

また、私は税理士では無いので、税金に関する質問・相談にはお答えできません。

では、本題に戻ります。

日本での税金・保険・その他手続き

海外移住に関連する手続きは色んなサイトで書かれているので、法人役員限定の話を中心に、一般的な話にも少し触れます。

所得税 → 約20%の固定税率、控除無し

日本法人の役員は、外国に住んでいても役員報酬に対する所得税は日本で支払います。税率は20.42%です。

No.1929 海外で勤務する法人の役員などに対する給与の支払と税務|国税庁

高収入の人、例えば役員報酬が1億の人であれば、国内に住んでいると半分近くが税金で取られますが、国外在住であれば20.42%なので税金は低く抑えられます。ただし、基礎控除等の各種控除がほとんど使えないので、私のような普通の収入の人だと逆に海外に住んでいる場合の方が税金が高くなる場合もあります。

あとは、通常は2〜3月に行う確定申告を、出国前に行う必要があるかもしれません。以下のファイルなどを参照してください。

給与所得者の方で国外転出を予定されている方へ(東京国税局のリーフレット PDF)

住民税は不要、ただし移住翌年の6月から

住民票を抜くと住民税がかからないというのは多くの人が知っていると思います。住民税はその年の1/1時点で居住している自治体に支払うものなので、1/1時点で国内に住民票がない=海外に住んでいる場合は、住民税を支払う必要がありません。

問題はそれがいつからか、ですが、結論から書くと6月からです。住民税は1/1時点で住んでいる自治体に対して、6月〜翌年5月まで支払うものだそうです。よって、例えば2025/9/15に住民票を抜いたとしても2026年5月までは住民税の支払いが発生します。

私の場合は2024年の3月に海外移住したので、住民税はそこから1年以上先の2025年5月まで支払う必要があり、2025年6月からようやく住民税が不要となります。

健康保険・厚生年金はそのまま加入

健康保険・厚生年金の加入資格は、大雑把に言って国内の法人から給与・役員報酬が支払われている事なので、日本の法人から役員報酬を受け取っているのであれば加入資格があります。

一時帰国時に健康診断や通院なども可能なので助かっています。

ちなみに、法人役員では無く通常の社員の場合、日本の本社から給与が出ているかどうかで加入資格が決まるようです。

マイナンバーカードは手続きする事で海外でも有効

ここは法人役員に限った話では無いです。

令和6年(2024年)5月27日から、海外移住してもマイナンバーカードを継続できるようになりました。手続き等の詳しい情報は以下を参照してください。

マイナンバーカードを国外で利用する – マイナンバーカード総合サイト

ちなみに私が海外移住した2024年3月にはまだこの制度は出来ていなかったので、マイナンバーカードは返却しました。その後、この制度が出来た後で海外でマイナンバーカードを改めて取得しました。

印鑑証明書が無くなる

ここも法人役員に限った話では無いです。

なぜか知りませんが、印鑑証明は各自治体が管轄(?)しています。従って、海外移住に伴い住民票を抜く事により、印鑑証明書が取得出来なくなります。

これが問題になった事が何回かあり、具体的には

  • 小規模企業共済の借り入れ返済
  • 不動産売却

の時に、普段とは異なる面倒な手続きが必要となりました。

いずれの場合も、印鑑証明書の代わりに「署名認証」というのが必要になるのですが、その辺の詳細には立ち入りません。

日本でやっておくべきその他の手続き

日本法人の運営に直接関係が無いものもありますが、やっておかないと生活が成り立たない・著しく不便になるので、ここに記載しました。

日本の携帯で、海外でも SMS を受け取れるようにしておく

最近はセキュリティの関係上二要素認証を取り入れているサービスも多いですが、SMS でセキュリティコードを受け取るタイプも多く見られます。海外でそうしたサービスを使う為にも、海外でも SMS を受け取れるようにしておく必要があります。

これは非常に重要なので、必ず確認しておく事をお勧めします。

ちなみに、私の日本でのメイン携帯は docomo だったのですが、特に設定はせずに海外でも SMS 受信できました。(以前設定したのを忘れているだけという可能性もありますが。)

非居住者でも使える銀行口座の開設・設定、オンラインバンキングの設定

日本の多くの銀行では、非居住者向けにはサービスを提供していません。移住に先立ち、使っている銀行の非居住者向けのサービスに契約するか、非居住者向けサービスがある銀行の口座を開設しておく必要があります。

また、オンラインバンキングの設定、(もしあれば)デビットカードの設定等も必ずしておきます。そうしないと、日本法人から振り込まれた役員報酬を使う事が出来ません。

なお、非居住者向けのサービスを提供していない銀行の口座は、(建前としては)原則解約する必要があります。

海外送金サービスの契約

日本法人から日本の銀行口座に振り込まれた役員報酬を居住国の口座に送金するために、海外送金サービスに契約しておく必要があります。有名なのは Wise で、私自身も使っていますが、それ以外にもいくつかあります。

Wise: The international account | Money without borders | Wise

法人クレジットカードの作成

既に持っている人も多いとは思いますが、法人名義のクレジットカードを作成しておかないと、経費精算などが面倒です。その際に、国際ブランドも重要です。

私は、法人カードは AMEX のものを持っていたのですが、今住んでいるマレーシアでは AMEX を使える店が結構少ないので、paild の物理カード(VISA)を発行しました。paild に関しては以前記事を書いているので、ご興味のある方は参照してください。

海外でやっておくべき手続き

日本法人運営に必要な海外での手続きはあまりありませんが、いくつかあげておきます。

医療保険の加入

法人を運営してようと無かろうと現地での医療がカバーされる保険には入っておいた方が良いのですが、家族がいる人や社員がいる法人の代表者であれば特に重要かと思います。

在留届の提出、在外選挙人名簿登録申請

在留届の提出は、海外で3ヶ月以上滞在する人は必須です。

海外で日本の選挙に投票するには、在外選挙人名簿登録申請が必要です。もちろん、法人の運営に直接関係はありませんが、法人の代表者が選挙に行ってないってのは何となくかっこ悪いので、申請しておいた方が良いです。

まとめ

日本法人の代表取締役が海外移住するにあたり、個人として必要な手続き、知っておいた方が良い情報などについて説明しました。

前回の記事でも書きましたが、もばらぶでは、海外で働きたい人向けのコミュニティ、Mo-Mado を運営しています。海外移住にご興味のある中小企業代表の方がいらっしゃれば、Mo-Mado 内にて分かる範囲でノウハウを共有いたしますので、是非以下のリンクより入会していただければと思います。

Mo-Mado への入会